樹氷が見たい![1日目]その前に塚田温泉センターへ
九州各地、初雪がまだ観測されず
(2020年 2月 7日時点)
今年は九州各地の観測地点で、いまだに「初雪」が観測されていない。これまでで最も遅かった記録は1909年で2月6日。だから今回は111年振りの記録更新だ。
そうなると、無性に冬らしいものを味わいたくなるのが人情。樹氷が見たい!という衝動に駆られてしまった。
しかし、九州で樹氷はめったに観られない。福岡県で可能性がある場所といえば英彦山だろう。しかし、ライブカメラを覗いてみたても雪すらなさそうだった。
では、県外で比較的近場となると、九重かな? ということで牧ノ戸峠のライブカメラを観てみると…
おっ、ここには雪がある!
週間天気では、また気温が上がり、暖かい日が続くと言っている。ということは…、今日を逃すとまたしばらくお預け…!? というかもうチャンスがないかも!! でも、時刻は14時をまわっている。今から行く?やめる? どうする…
やっぱり、行こう!
必要な携行品をパパッと揃えて、家を飛び出した。その10分後には、トレーラーを連結して出発していた。
自宅のある大野城市から朝倉方面に行くときは、基本的にこの道を走ることにしている。政庁通りから筑紫野太宰府線。そして、筑紫野三輪線で国道386号バイパスにぬける道だ。
太宰府政庁前は季節や時間帯によってときどき渋滞するが、筑紫野太宰府線に入ると交通量は減り、信号も少ない。快適に走れるルートだ。
そして、これもほとんど習慣化されているのだが、たいていの場合、「ダイレックス朝倉店」に立ち寄る。出発して約1時間の場所にあり、トレーラーでも駐めやすい。値段が安く、生鮮食料品も置いてあり、クレジットカードを利用可能。保冷用氷サービスもある。
トレーラーの3電源の冷蔵庫は移動中は12V直流電源を使うが、それではほとんど冷えない。なので、保冷用氷を貰って冷蔵庫に入れ、それで冷やすというのが一般的だ。
ここで、今晩と明朝の食材を調達したので、当座の食料の心配はなくなった。後は、心置きなく牧ノ戸峠を目指せば良い。国道386号で夜明。夜明大橋を渡って国道210号を日田へと走った。
そうだ、せっかくだから塚田温泉センターに寄ってみよう。
ここは、「湯かたば」のオーナーから教えていただいたオススメの温泉だ。「湯かたば」とは、杖立温泉観光駐車場の隣にある新しい共同浴場だ。
塚田温泉センターは、天ヶ瀬温泉と杖立温泉を直線で結んだときのちょうど中間点に位置し、日田からはスカイファームロードひたを通れば約30分で到着できる。
塚田温泉センターでひとっ風呂!
塚田温泉センターには、日が暮れ始める18時に到着。施設は周囲を田んぼに囲まれており、駐車場は広い。50台ぐらいは駐められそうた。トレーラーを駐めるのにもまったく問題はなかった。
私がクルマを降りて入口に向かおうとしたら、玄関前に駐まっていた軽自動車から常連客と思われる女性が降りてきた。
それを目撃した私はとっさに動いて、彼女よりも先にドアの前に立った。やはり男性である私が先にドアを開けて、そこへ彼女をそっと通すというのが世の習わしだ。私も普段からそうするよう意識しているので、今回も身体が自然に動いただけのことだ。
ところが…、である。ここを初めて訪れる私にとって、ここの扉はレベルが高かった。はっきり言って、まごついた。まず、手前に引くドアなのか横にスライドさせる引き戸なのか、ぱっと見、判断がつかなかった。取っ手の形状も私の頭を錯乱させられた。その上、扉は左右対称になっており、どちらか一方が開くのか。それともどちら側とも開くのか。見抜くことができずにもたついた。
結果的に、その様子を見かねたその女性が、慣れた手つきでドアを開け、先に開けて入っていったのだった。
人生は、思い通りにならないことが多々ある。急いては事をし損じる。
その女性は、心の中できっとこう思っていたことだろう。「この人、割り込んできたくせに、何をもたもたしてるの!さっさと開けてよね!」って。
私は少々、気まずさを噛み締めながら、彼女に続いて中に入った。
しかしそのモヤモヤした気持ちを一新してくれたのは、受付のおばあさんだ。地元の常連客だからということもあるだろうが、挨拶の後、一通りの近況報告?というか世間話をしてから脱衣所に移動する。風呂から上がった人も、涼みつつ、このおばあさんとしばらく語らってから帰っているようだった。
私が初めて来たことを伝えると、優しい口調で、対応してくださった。そしてやりとりの最後には「ゆっくりしていってくださいね」と言ってくれて、先ほどのモヤモヤは既にどこかに行っていた。
ここの営業時間は13時から21時まで。入浴料は地区外の者は200円。自動発券機で購入する。詳しくは日田市観光協会天瀬支部のWebサイト「お環えりなさい天瀬」の塚田温泉センターを紹介するページを参照してほしい。
男湯は受付の右側のカーテンから中に入る。カーテンの中が脱衣室で、その向こう側に浴室がある。
浴室に入ると、先客はふたり。私はまず身体と頭を綺麗に洗ってから、湯船に浸かった。
浴槽右側に扉があるが、その向こうは、もしや露天風呂?
浴槽のへりに座って、窓からの涼風に当たっておられた先客のおひとりに聞いてみた。
「外は露天風呂になってるんですか?」
「いや、なってないね」
私も窓に近づき外を眺めると狭いアスファルトの通路と壁?すでに暗くなっていたので外の様子はよく分からなかったが、確かに露天風呂は無かった。そして、この応答を切っ掛けにこの方との会話が始まった。地元在住の常連客だ。
この方の話によると、ここのお湯はモール泉で茶色い色をしている。以前はもっと濃かったが、地震でお湯が止まり、ボーリングし直したら、色が薄くなったとのことだった。
モール泉とは植物由来有機物をたくさん含むお湯のこと。確かにお湯がやわらかったし、上がった後の肌はさらっとさっぱりしていて、ほかほか状態が長く続いていた。
それにしても、ひとたび大きな地震が起こると温泉の湯量や泉質にも多大な影響を及ぼしてしまうということを、今回の熊本地震は強く印象づけた。これまではただ漠然と、無意識的に、温泉のお湯は半永久的にこんこんと湧き続けるもの、いつまでも自然の恵みとして享受できるものと思い込んでいたが、実際にはまったくそんなことは無いのだ。いや、温泉に限らず目に見えるもので永遠に続くものなど何一つない。
いつも身近にあると、あることが当たり前になっていき、感謝の気持ちがだんだんと薄らいで、空気みたいなものになっていく。ところが、ある日突然、それを失うような事態に遭遇する。そうなってみて初めて、その恵が如何に大きかったかを痛感する。人生においてもまったく同じだ。これまで幾度となく、この種の手痛い失敗を重ねてきた。やはり人生も自然も決して侮ってはいけない。
湯に浸かりながら、頭の中は次から次に思いを馳せ、表情はますます真剣になっていく…
変えられないことならば、それを受け容れる平穏な心を持ち、変えられることならば、勇気を持って変える努力をする。その上でさらに変えられるかどうかを見極める能力が与えられていれば…。
おっとっと。ふと我に返る。それにしても、ここの心地良いお湯はゆったりと使っているだけで、頭の中に生ずる思いをニーバーの祈りにまで昇華させてしまう。
そうこうしているうちに、もうひとり地元の方が入ってこられた。先客とは顔見知りらしく、ここ数日の出来事を話し始められた。後からわかったのだが、この方は近くの古民家を購入し、5年前に福岡から移り住んできたとのこと。私が樹氷を見たくて、これから牧ノ戸峠に向かうと話をしたら、その方は毎年冬、久住に登って、冬山の写真を撮っているそうだ。ある年の思い出を話してくれた。
「御池はこの時期、凍るんですよ。以前、牧ノ戸の登山口でスティックを持って集まっている大学生サークルのような一団がいて、私はその団体の後を着かず離れずみたいな感じで、写真を撮りながら登っていったんですけど、御池に付いたとき、彼らはそこでアイスホッケーをやっていましたね。」
「へぇー、そんなに厚い氷が張るんですね。」
御池とは久住分れから中岳に向かう途中にある火口湖。環境省のWebサイト「阿蘇くじゅう国立公園」には御池のことを次のように記載している。
「 御池は夏にはエメラルドグリーンの池となります。西側にある火口跡の空池には全く水がないのですが、不思議なことに、空池よりも標高が高い位置にある御池には、涸れることのない水がたたえられているのです。冬には全面凍結し、ソリやスケートなどで楽しむ登山者もいます。」
私も御池の氷には興味を抱いたが、今回は十分な備えができていない。私としては牧ノ戸峠の周辺を散策する程度で風景を楽しむしかない。
話題を変えて、この周辺のおすすめスポットを聞いてみた。すると、この冬山写真家はローズヒルあまがせを挙げられた。きっと写真的にも見どころ豊富な場所なんだろう。是非、次の機会に訪ねようと思う。
風呂を上がって、受付に戻ると、先に出られていた最初の常連の方が、おばあさんと世間話をしながら寛いでいた。やはり誰にとってもこのおばあさんとの会話が心地いいのだろう。
「温泉成分表、ありますか?」
私もおばあさんに話しかけた。すると、おばあさんはおもむろに立ち上がり、後ろを向けて、受付の後ろの壁に貼られていた「温泉成分表」の四隅の押しピンを外しはじめられた。
「いえ、そのままで大丈夫ですよ~」
と私は声を掛けたが、おばあさんは、
「字が小さいので、見えにくいでしょう」
と言って、外し終わった成分表を受付台の上に置いて、見せてくれた。
「ありがとうございます」
おばあさんの言葉に甘えて、受付台の上で温泉成分表の写真を撮らせていただいた。壁に貼ったままの状態でもカメラのズーム機能を使えば写真は問題なく撮れるのだが、何よりおばあさんの気持ちがありがたかった。
ここには、こぢんまりとした農産物直売コーナーがある。せっかくなので地元の方が手作りされた「白菜キムチ」を買った。今夜のつまみが一品増えた。
農産物直売コーナー(奥) 農産物直売コーナー(手前)
杖立温泉・小国・瀬の本高原を通って牧ノ戸峠へ
塚田温泉センターを出てからのルートは決めていなかった。ただ漠然とスカイファームロードひたをさらに登り、宝泉寺温泉から町田ガーネット牧場を通って長者原から上がればよいなぁとその程度に考えていた。これを北ルートと呼ぶことにすると、北ルートはどこから雪道になるかだけが心配だった。
しかし、初めに出会った常連の方は瀬の本から上がる方がいいのではと提案。これを南ルートと呼ぶことにすると、確かに太陽光線の関係で南側斜面の方が北よりも雪は少ないだろう。この意見を採用することに、温泉センターを19時10分に出発。
塚田温泉センターから牧ノ戸峠までは、距離的には北ルートよりも南ルートの方が5キロ程度遠回りだが、こちらの方が快適に走れる道なので、時間的にはいずれも同程度の1時間弱で到着できる。
途中、食材を買い足すなら小国町しかない。ここでも駐車場が広くトレーラーが駐められて、食材も豊富なのは、「フレインゆめおぐに店」だ。フレインは大分・熊本の両県を中心に展開しているスーパーマーケット。営業は9時~22時。ただし、支払に一般のクレジットカードは使えない。なので、キャッシュレス決済ポイント還元事業の恩恵にあずかるためには、フレインカードが必要だ。フレインカードは 電子マネー機能がついたポイントカードで、クレジット機能はない。
国道212号を南下し、南小国町役場から町道に入って、その後442号に乗り換える。黒川温泉を過ぎたあたりから道路凍結が気になりだしたが、まだ大丈夫だった。そして、瀬の本から牧ノ戸まで上がるやまなみハイウエイは所々雪が残っていたので、いくら四駆といえども凍結に注意し、慎重に運転した。
牧ノ戸峠の駐車場には20時40分に到着。第2駐車場の一番奥にヘッド車とトレーラーを繋いだまま駐めた。