水源茶屋の醤油買い付けが主目的?[2日目①]押戸石の丘で風景写真家と出会う
早朝5時にアラームが鳴った。トレーラーの天窓から見える空の色は、白み始めてはいるが、まだ濃紺。
「まだだな…。それにしても冷える。」
ベッドにはシーツだけ敷いて、裸で寝ていたので当たり前と言えば当たり前だが…。シャツを着てシュラフにくるまった。
しかし、次の瞬間…、というか、次の場面では、
「しまった、だいぶ明るくなってる!」
瞬時に感じたが、1時間程度は過ぎていた。
シュラフから飛び出し、窓のスクリーンを上げる。
時計を見ると 6時を回っている。着替えないといけないが、とりあえず窓からワンショット。
陽はとっくに山陰から抜け出して、次の雲に隠れている。日の出は終わっていた…。
急いで着替えて、外に出てみた。
朝の新鮮な空気が身体を包む。
コスモスが咲いていた。小国町は雲海の下…
駐車場から押戸石の丘に直線的に上るルートを、少し登っては三脚を据え、また少し登っては三脚を立てとこれを繰り返しながら、視点を変えて写真を撮った。
丘の頂上に行くと、カメラマンがひとり、完全防備の服装でどっしりとした三脚に標準~望遠のズームレンズをつけたカメラを据えて、写真を撮っておられた。
「おはようございます。」
挨拶をしようと思ったら、先方から先に挨拶をされてしまった。即座にこちらも挨拶を返す。
「おはようございます。いつ頃からここにおられたのですか?」
「まだ暗いうちからおりました。一番良い時間帯から…」
「寒くなかったですか?」
「いえ、これを着てますからね。」
山歩きの格好に近い完全防備の服装だった。
大分市から来られた風景写真家の方だった。大分市の自宅を午前3時頃出て、ここに来られたそうだ。事前に天気図を確認したところ、今日だったら押戸石の丘から大観望までの間の波打つ丘の谷の部分に霧が入り込んだ風景写真が撮れる可能性もゼロではないと期待に胸を膨らませてやってきたとのこと。
挨拶を交わした後、私は写真家のレンズの方向を気にしながら、自分も自分なりにフレーミングを楽しみながらシャッターを切った。
「どちらから登ってこられましたか?」
「駐車場からまっすぐです。」
「じゃあ、今度はこちらから下ってみませんか。」
風景写真家から誘われたので、そうしてみることにした。
道を下っている途中途中で、写真家の傍らに立ち、私も同じようにシャッターを切ってみたが、写真家と比べて、圧倒的に1枚に対するこだわりが少なかったことを思い知らされた。
風景写真協会でいう風景写真は、基本的に人工物が入り込んでいないものでなければならないそうだ。シャッターを切る前に構図に拘わるのはもちろんだが、事前に計画を立て、風向きによって雲の流れる向きや速度、太陽の動きとそれによってできる光と影などを計算し、想定した状態になるのをじっと待つ。
太陽光線の角度の関係で、減り張りのある写真が撮れるのは夜明けから午前8時半までの間。
LOWで撮り、絞り優先で、基本的にF18~20ぐらいにして、F8よりも開けることはほとんどない。
NDフィルターとリモートレリーズは必須。
「撮った写真はプリントしていますか?」
「いいえ、PCで必要なときに観ています。」
「それだったらプリントした方が良いですよ。写真屋さんにメディアを持っていけばすぐにプリントできるし、自宅のプリンターで打ち出してもいい。そして部屋に飾ってみる。数ヶ月飾っても飽きの来ない写真が良い写真だというです。」
なるほど…。
「私は、独り善がりにならないよう風景写真の月刊誌に毎月、写真を出品し、選者のコメントが返ってくるのを待っていました。的確なアドバイスが戻ってきますよ。それを糧にして、写真を撮り、また出品する。それを続けていると、どうすれば良いのかが段々と分かってくる。」
「なるほど…」
例えば、押戸石の丘の頂上にある木を撮るとする…
向こうの木を中心にして、それから続く道を手前に配置する。左右の中央に木を擱いて空と地面を1対2ぐらいに分ける…。
左の手前の木が目立つので、望遠側にしてフレームの外へ…。
実際にはこんなところの写真を撮っている。この風景をどう切り取るか…。
フレーム下の両端に道幅が会うように調整しようと、焦点距離を望遠側にすると、道のカーブが目立たなくなってしまった。
カーブは目立った方が良いのだが…。望遠を標準に戻し、三脚の足を短くして低位置から撮った方が良いのかも…。そうすると左側の大きな木が入ってくる…。
なかなか思い通りにはならない。その間に、太陽は動き、雲も流れるので、光と影の状態が刻一刻と変化する。風景写真はじっくりと待つ部分とここだ!という瞬間にサッとシャッターを切るという長時間と瞬間が重なる不思議な世界…。
駐車場に戻って、コーヒーでも飲みましょうということになった。
受付小屋には管理人が出勤していた。挨拶を交わす…。写真家が入場料の支払いを申し出ると、管理人不在の時に来られた方だからと支払を免除してくれた。緩やかな対応だ。
私たちは小屋の中に入ってコーヒーを買うことにした。だが、1本150円で販売されているクーラーボックスの中の飲み物にはコーヒーが入っていなかった。それぞれ、好きな別の飲み物を選択し、缶にお金を入れて、店を出た。
私たちは広場にある木製ピクニックテーブルベンチに座って、ジュースを飲みながら会話を再開した。
20㍍も離れていないところに軍用ティピーテントを張ったソロキャンパーがキャンプを楽しんでいた。
写真家がヒメボタルの写真を撮りに行ったときの話をしていると、ソロキャンパーも写真に詳しい方で話に反応した。辺りは静かな広場なので私たちの会話も遠くまで伝わる。
「こちらに来て、一緒に話しませんか?」
写真家が誘った。
この方は、福岡県の八女から来られていて、写真を撮り続けている人だった。特に昨年までは花火の写真に拘って、いろんなところに出掛けたそうだ。
ヒメボタルも花火も暗い中での光を追う写真で共通だ。花火の写真でもNDフィルターで減光して、バルブ撮影していると…。
風景写真家が花火写真家の作品を是非観たいと言われたので、サイトに戻ってカメラを持ってこられた。作品鑑賞会になった。
ソロキャンパー写真家の特にお勧めな花火大会は、確か、「つくみ港まつり納涼花火大会」だと言われていたような…。台船から打ち上げるので、水面にも花火が映って綺麗だと…。
それでもこのふたりはそれぞれに写真を追求し続けていて圧倒される。私は旅先でパチリと撮るだけ…。もっとこだわりを持って、旅写真を追求していかなくちゃ…。このおふたりに強く影響を受けた。
楽しい語らいの時を1時間以上過ごして、解散した。
押戸石の丘を出て、大観望方面に走った。久し振りに菊池渓谷に続く道の途中にあるドライブイン水源あるいは焼肉水源で昼食をとりたくなった。
本来ならばマゼノミステリーロード経由で行く方が近道なのだが、押し戸石の丘への入口の先で通行止めになっている関係上、県道12号線に戻って、大観望のところから県道45号線(菊池阿蘇スカイライン)に乗り換えた。
途中、風景が美しいと感じたらクルマを駐めて、写真を撮ってみた。だが、クルマの車窓で美しいと思える風景と、クルマを駐めて撮った写真の長方形で切り取られた風景とでは、印象が大きく異なってしまう。
さらに先に進んで別の場所へ
うーむ、構図が決まらないなぁ。わざわざUターンして戻ってきて写真を撮ったというのに、ファインダーで覗くとそれほどパッとしない。
さらに別の場所へ移動して、同じことを繰り返す…。
それにしても天気は素晴らしく良かった。